東京地方裁判所 平成7年(モ)11113号 決定 1995年11月29日
申立人
乙川春夫
右代理人弁護士
遠藤直哉
同
村田英幸
主文
本件申立てを却下する。
理由
一 本件申立ての趣旨及び理由
別紙忌避申立書のとおり。
二 当裁判所の判断
1 一件記録によれば、次の事実が認められる。
(一) 申立人は、丙山太郎(以下「丙山」という。)を仲介人として有限会社Cビルから土地(以下「本件土地」という。)及び土地付建物(以下「本件建物」という。)を買い受け、本件土地をさらに丙山に転売したが、本件建物には雨漏りが生ずるという瑕疵があったにもかかわらず、丙山らが右瑕疵を秘して申立人に本件建物を売り付けたとして、丙山に対し、本件土地の転売による転売差損の賠償を求める前記本案訴訟(以下「本案事件」という。)を提起した。
(二) 申立人は、当庁民事第四一部に係属中の別件訴訟(東京地方裁判所平成六年(ワ)第二五四一七号)において、本件土地・建物を売り付けたこと自体を丙山らの共同不法行為とし、同人らに対し損害賠償を求めているが、その被告中には、株式会社A銀行(以下「訴外銀行」という。)も含まれている。
(三) 裁判長として本案事件を担当する当庁民事第三八部の甲野一郎裁判官(以下「甲野裁判官」という。)は、もと第一東京弁護士会に所属する弁護士であり、平成元年四月に裁判官に任官して以降現在に至っているものである。
2 そして、裁判官に対する当事者の忌避権を定めた民事訴訟法三七条一項にいう「裁判ノ公正ヲ妨クヘキ事情」とは、裁判官が担当する事件の当事者と特別の関係にあるとか、訴訟手続外において既にその事件につき一定の判断を形成している等の当該事件の手続外の要因により、その裁判官によっては当該事件について公正で客観性のある裁判を期待することができない客観的事情を指すものと解するのが相当であるから、その訴訟内における裁判官の訴訟指揮権ないし審判の方法・態度等は、それが合理的にみて当該事件の手続外の要因によって動かされているものと認めざるを得ないような場合は別として、それ自体では直ちに忌避の理由とすることはできないものというべきである。
3 そうすると、本件において申立人が忌避の理由として主張する事実は、いずれも前記法条の定める忌避事由には該当しないと言わざるを得ない。すなわち、
(一) 申立人は、まず、甲野裁判官が裁判官任官前に弁護士として所属していた共同法律事務所が訴外銀行を有力な顧客としていたから、同裁判官も訴外銀行の法律事務を取り扱った可能性がある、仮にそうでないとしても、右事務所の構成員であった以上同裁判官も訴外銀行と利害関係を有していたと考えるべきであり、これらに照らすと、同裁判官によっては公正な裁判が期待できないと主張する。
確かに、甲野裁判官がもと弁護士であったことは前示のとおりである。
しかしながら、裁判官が当該事件ないしはこれと実質的には同一と評価される事件について訴訟前に一方当事者のために助言を与えたり私的鑑定をした場合は格別、単に一方当事者の顧問弁護士事務所に所属する弁護士であったこと、あるいは弁護士として当該事件と無関係な法律事務を取り扱ったことがあることから直ちに裁判官につき裁判の公正を妨げるべき事情があるものとはいえないから、申立人の右主張の理由のないことは明らかである。
それだけではなく、そもそも本案事件において訴外銀行は当事者となっていないし、甲野裁判官が本案事件及びこれと同一と見られる事件について、法律事務を取り扱うなど事件に関与した形跡は全く認められない。
(二) 次に、申立人は、本案事件における訴訟指揮、証拠の採否及び弁論兼和解の際における言動に照らせば、甲野裁判官の偏頗性は明らかであると主張するが、右主張は、要するに、弁論ないし証拠調べに関する同裁判官の訴訟指揮権の行使の不当をいうに帰し、しかも、同裁判官が何らかの手続外の要因(同裁判官と訴外銀行との特別な関係)によって動かされているものと認めることもできない。
(三) さらに、申立人は、甲野裁判官は裁判官としての適性がない旨るる主張するけれども、そのような裁判官個人としての適格性に関する事情は具体的な事件との関係の問題ではなく、それ自体裁判官につき裁判の公正を妨げるべき事情があるとはいい得ないことが明らかである。
その他、一件記録を精査しても、甲野裁判官に本案事件について忌避事由に該当する事実があると認めることはできない。
4 以上のとおり、本件忌避の申立ては理由がないから、これを却下し、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官赤塚信雄 裁判官田中敦 裁判官脇由紀)
申立の理由
第一 職務上取り扱うことのできない事件を取り扱ったこと
一 右裁判官の経歴
右裁判官(以下、同裁判官ないし裁判長という)は、右裁判部の部総括(裁判長)である。本件被告は株式会社A銀行と共に原告に対する共同不法行為者である。
右裁判官は、裁判官任官前、B合同法律事務所に弁護士として所属していた(第一東京弁護士会所属)。
右B合同法律事務所は、株式会社A銀行を有力な顧客としていた。判例検索機のリーガルベースに基づく調査によれば、右法律事務所の弁護士が多数の判決においてA銀行の代理人となっていることが明らかとされた(甲第三号証)。右裁判官自身、弁護士として右法律事務所在職中、A銀行の訴訟事件、法律相談を含む法律事務を取り扱った可能性が極めて強い。
すくなくとも、B合同法律事務所がA銀行を顧客としていたことは事実であるので、右裁判官が直接事件を受任していなくとも、共同法律事務所の構成員の一人ないし複数の弁護士が法律相談を含む法律事務を受任している以上、利害関係があったと言える。
なお、同裁判官自身がA銀行を顧客としていたか否か、又はB合同法律事務所がA銀行を顧客としていたか否かは、同裁判官に確認すれば、認めるところであろう。
二 職務上取り扱うことのできない事件
1 しかるに、裁判官任官前に、弁護士として取り扱った当事者の事件については、定型的に利害相反に当たるとして、職務上取り扱うことのできない事件と見るべきである。
2 日本の例
日本においては、弁護士任官の歴史が浅いため、この点に関する判例は見当たらないようである。
しかし、日本の最高裁においては、除斥原因がなくとも、利害関係があった当事者(たとえば、その当事者の顧問弁護士であった場合など)は、自ら回避して、問題が起きないようにしている。
俗に「李下に冠を正さず」とも言う。公正・廉潔を求められる裁判官としては、右のような疑惑を招き、かつ、後述するように、偏頗な訴訟指揮をしている場合には、偏頗性が原則として推定されると言うべきである。
3 アメリカ合衆国の例
アメリカ合衆国においては、裁判官任官前に、取り扱った当事者の事件については、定型的に利害相反に当たるとして、職務上取り扱うことのできない事件とされている。
これは、アメリカ合衆国の州裁判所、連邦裁判所での「実務」でもある。
たとえば、ゴールドファーブ事件(Goldfarb et al. v. Virginia State Baret al. 95 S. Ct. 2004)においては、被告の一人がバージニア州弁護士会であり、他の被告がフェアファックス郡弁護士会であったところから、アメリカ連邦最高裁のパウウェル判事は、かってバージニア州弁護士会員であり、以前所属していた法律事務所が同郡弁護士会を代理していたことから、自ら審理に加わらずに回避している(三宅伸吾『弁護士カルテル』信山社刊、五九頁、七五頁注(95))。
また、アメリカ合衆国連邦政府(原告)対IBM(被告)の反トラスト訴訟において、IBMに対して再訴を禁じる訴訟取下げには司法長官の承認が必要であったが、スミス司法長官は、IBMに対して反トラスト訴訟の私訴を起こしていたメモレックス社の代理人となっていたギブソン・ダン法律事務所の元パートナーであり、IBM訴訟に関するいかなる裁定に加わる資格を失っていたという記述がある(ジェイムズ・スチュアート『パートナーズ』早川書房一六一頁)。
このような例は枚挙に暇がなく、裁判官が当事者と利害関係がある場合には自ら回避し、あるいは当事者から忌避されているというのが、アメリカ合衆国の州裁判所、連邦裁判所での実務である。
三 本件へのあてはめ
本件は、実は雨漏りしていることを知っていたA銀行を含む被告らの詐術等により、雨漏りであることを知らずに、土地・建物を両事件の被告らの仲介等により被告有限会社Cビルから買い受けた原告が、被告らに対して、不法行為に基づく損害賠償請求をするものであり、社会的歴史的に見て同一の紛争である。そして、原告らの主張及び右両事件における証拠調べの結果によれば、ことに丁沢夏夫、被告丙山太郎の両者が株式会社A銀行○○支店、(有)Cビルとの協議の上、本件建物の雨漏りについて謀議して、これを原告に対して秘匿することを謀議して、本件建物を売りつけたという事案である。
しかるに、右裁判官が、従前の顧客であった株式会社A銀行の不利益になるような判断(判決理由中の判断にせよ)をすることは、到底考えられず、右の裁判官の経歴からして、既に偏頗のおそれがあったというべきである。
また、左記のように、御庁民事第四一部合議係においては、平成六年(ワ)第二五四一七号損害賠償等請求事件として、被告丙山太郎の外、株式会社A銀行も共同被告として、原告から訴えられているので、本件において、株式会社A銀行に不利に事実認定をすれば、当然右別件訴訟において、株式会社A銀行に対して事実上不利な推定が働くことは確実である。そうすると、右裁判官が、従前の顧客であった株式会社A銀行に対して、不利な事実認定をする筈もない。
〔別件訴訟〕
当事者 原告 申立人
被告 株式会社A銀行、丁沢夏夫、丙山太郎ほか九名
事件名 平成六年(ワ)第二五四一七号 損害賠償請求事件
係属部 東京地方裁判所 民事第四一部 合議係
よって、右裁判官は、偏頗のおそれがあるとして、忌避せられるべきである。
四 忌避事由が判明した時期
なお、右忌避事由(裁判長が株式会社A銀行を顧客としていたこと)が、原告代理人らに判明したのは、平成七年九月一一日である。
右裁判官は、自らが株式会社A銀行と利害関係のあったことを、原被告ら当事者には一切告げず、秘密にしていた。
第二 右裁判官の偏頗さを裏付ける訴訟指揮
一 裁判長の誤導尋問
丁沢証人尋問速記録六〇頁から六二頁によれば、
裁判長 それで、実際に契約を行う段階で、いわゆる重要事項の説明というときに、雨漏りそのもののあった事実は乙川さんに話してあるわけですね。現在進行中であるかもう止まっているかというのは別として。
丁沢 はい。
裁判長 それに対して、乙川さんのほうの認識はどういう認識だったんですか。
丁沢 一言もなかったと記憶しております。
裁判長 それで記録によれば、乙川さん自身もこの物件を見に行って、程度は別として問題については認識していたようですけれども、そのような状況はあなた自身感じておりましたか。
丁沢 はい。
裁判長 それは、先程当時は物件がなくて売手市場というようなお話でしたけれども、それとの絡みで乙川さんの方は売買を急いでいたという様子はなかったんですか。
丁沢 まあ急いでいるという様子は見られませんが、一応当時の状況等から取得したいという意向は見えました。急いでいるという感じではなかったんですけれども、一応取得したいと。
裁判長 そうすると、若干問題があってもとにかく契約したほうがいいという感じだったわけですか。
丁沢 当時はバブルでございましたんで、土地がもう一か月後には幾らになるかというのが、どんどん上がっておりましたんで。
と答えている。これらの裁判長の質問は重大な誤導尋問、又は違法な誘導尋問である。
①そもそも、裁判長は丁沢に原告の認識を聞いても無駄であると言ってきた。たとえば、丁沢速記録六四頁にあるように、原告代理人村田の尋問に裁判長が介入してきて、
裁判長 仲人した人にそんなことを聞いても分からないんじゃないですか。
丁沢 認識していないでしょうと言われても、私乙川さんじゃございませんので。
すなわち、丁沢に原告の認識を聞いても、丁沢に答えられるわけではないと、裁判長自らが言っていた。そうすると、原告の認識に関して丁沢に質問した先程の右裁判長の質問というのは、極めて不当な誘導尋問害の何ものでもない。
②また、「乙川さんの方は、売買を急いでいたという様子はなかったんですか」「若干問題があってもとにかく契約をしたほうがいいという(原告の)感じ」というのも、証拠に基づかない強引な誘導尋問である。原告が買い急いでいたなどという証拠は全くないのである。
③また、原告の「感じ」を丁沢に聞いても無駄である。それはあくまでも、原告の認識であって、別件訴訟で被告とされている丁沢に尋問してみても、自分に有利なことしか証言しないということを割り引いて聞いても、原告本人ではないのだから、原告の意識、考えというものを丁沢が証言することは、「乙川さんじゃございませんので」、無意味であって、証拠価値はない。
そもそも、原告が「ある程度(雨漏りの)問題を認識していた」というのが、どの程度の認識なのか、前提が全く不明であって、この尋問及び証言は証拠価値がなく、無意味である。雨漏りが「現在進行中であるかもう止まっているか」ということが重大な問題であって、雨漏りが単にあったという一言で、原告が、雨漏りしている(又は再三雨漏りしていて修理しても又雨漏りするという)本件建物の瑕疵を認識していたとは到底言えないのであるから、右の裁判長の一連の質問は、全く前提を欠いており、誘導尋問であって、証拠価値はないのである。
裁判長は、「(雨漏りの)程度は別として」「若干問題があっても」等と質問しているが、まさに雨漏りの程度が問題なのであって、原告が雨漏りしている程度について認識がなければ、本件建物の瑕疵を認識する余地が全くないことは明白である。それを、「程度は別として」あるいは「若干」等という言葉で誤魔化すことはできない。
現に、左記のように、本件建物が雨漏りがしていることなど、本件建物の瑕疵を原告が認識する余地がなかったことは、丁沢自らがはっきりと証言している。
原告代理人(村田) 尋問録にきちんと残しておきたいんで、すみませんけれどもお答えになっていただけますか。再三雨漏りして、修理してもまた雨漏りすると、そういうことは告げていないんでしょう。
丁沢 告げてございません。
原告代理人(村田) 雨漏りがしたことがあるという程度の説明だったんでしょう。
丁沢 そうでございます。
したがって、雨漏りの程度に関する認識という前提事実をはっきりさせないまま、裁判長が証言させた丁沢の証言というのは、明らかに誤導尋問であって、証拠価値もない。
裁判長の意図としては、原告が本件建物を瑕疵物件として認識していれば、株式会社A銀行の瑕疵についての悪意いかんを問わず、原告の請求を棄却できるという点にある。すなわち、株式会社A銀行が雨漏りという瑕疵を(程度は別として)第一売買前に知っていたことは、渡辺証人が証言し自認しているところであるから、この株式会社A銀行にとって、重大な不利な論点を外して、原告の請求棄却の判決が書くことができるという点にある。
右のように、裁判長が、一方の当事者ないし実質的に相手方となっている株式会社A銀行に対して有利で、明らかな誤導尋問までしている事実は、裁判長の偏頗性を裏付ける重要な証拠と言える。
二 裁判長の執拗で度重なる原告代理人の証人尋問等への介入・制限
1 裁判長は、当事者尋問・証人尋問の当初から、執拗で度重なる原告代理人の証人尋問への介入、制止を繰り返してきた。
2 被告本人尋問
丙山太郎に対する証人尋問の際には、原告代理人村田が雨漏りについての認識を尋問していたところ、
裁判長 「雨漏りの点はもういいじゃないですか。」
と言って、原告代理人の尋問を一方的に制限した。
3 齊藤証人の証人尋問
齊藤和行に対する証人尋問の際には、原告代理人村田が、本件の経緯を尋問していたところ、
裁判長 「経緯はどうでもいいから、重要な所だけ聞いて下さい。」
村田 「しかし、本件第一売買及び第二売買の経緯は、本件での被告の不法行為を裏付けるのに、重要な事実ですから。」
裁判長 「齊藤証人に対しては陳述書が出ているから、細かい所は、もういいじゃないですか。」
等と訴訟指揮をして尋問を制限した。
なお、陳述書が原告側から提出されているからといって、証人尋問を制限してよい理由にならないことは、民事訴訟法及び同規則を見れば、このような理由が証人尋問を制限してよい理由として掲げられていないことからして、明白である。
むしろ、民事訴訟法は、直接主義を取っており、裁判官が自らの耳で証言を聞き、自らの眼で証言態度を検証するという原則を取っている。したがって、右訴訟指揮は直接主義にも反する。
このような民事訴訟法の直接主義の原則に反してまで、原告代理人の尋問を制限する態度は、制限された当時は、原告代理人において、思い当たる節はなかったが、今にして思えば、裁判長の偏頗性の現れであった。
4 丁沢証人の証人尋問
丁沢に対する証人尋問の際には、前述のように、しばしば、介入尋問をなしている。証人が証言する前に、裁判官自らが答を言うという、証人尋問では到底考えられないようなことも行なっている。
また、同証人の証人尋問の際に、原告代理人遠藤が、A銀行が予め本件建物の雨漏りを知っていたかどうかを質問したところ、同裁判長は、「A銀行関係のことは、どうでもいいじゃないですか。」等と、同代理人の尋問を制限した。
A銀行が被告丙山太郎と雨漏りする本件建物を原告に売りつけることを共謀したと原告が主張している以上、A銀行の本件建物の雨漏りについての認識は「どうでもいいこと」ではない。
それにもかかわらず、同裁判長が右のような尋問制限をしたということは、今にして考えれば、同裁判長が弁護士在職当時、A銀行と顧客関係にあったからというのが真の理由である。
5 渡辺証人の証人尋問
渡辺証人の証人尋問においても、原告代理人が質問をしたところ、同証人が証言する前に、裁判官自らが答を言うという、証人尋問では到底考えられないようなことも行なっている。
6 なお、右のうち、尋問を制限したやり取りの一部は、証人尋問速記録に掲げられていないものもある。
しかし、書記官ないし速記官が当該民事部の裁判長の非常識な言動、不当な尋問制限など、裁判長の名誉(悪評)に係わる事柄を尋問速記録に残さないのは、むしろ通例である。
あるいは、特に悪意もなしに、書記ないし速記の際には、特に重要な点に関係している(まさか裁判長の元所属事務所が株式会社A銀行を顧客としていた)とは思わなかったので、省略したということもあろう。
原告代理人らは、右の尋問制限等の訴訟指揮の際には、裁判長の攻撃的態度・一方当事者に偏した態度が何に由来するのか、全く分からずに行動していたのだが、今にして思えば、裁判長が弁護士在職当時に株式会社A銀行との間で顧客関係にあったからだと考えれば、全て辻妻が会うのである。
7 裁判長の法廷・和解における席上の言葉遣いは、極めて高圧的で、暴言に近いものであり、本件における原告に対する敵意を示すものといえる。
たとえば、同裁判官は、原告側の証人尋問もせずに、被告丙山太郎の被告本人尋問が終了しただけの、極めて初期の段階で(その後、被告本人尋問以外の人証を取り調べている)、弁論兼和解を開き、「原告の請求は到底認められないな。請求金額の一割で和解しなさい。」等と極めて高圧的な態度を取った。ろくに人証も調べていないし記録も検討していない段階で言うような言葉とは到底思われない。このようなエピソードは、同裁判官がどれだけ予断を持って事件の審理に臨んでいるかを物語るものである。
もっとも、右の弁論兼和解のやり取りは、弁論調書に残されていないが、そもそも書記官は弁論兼和解に立ち会っておらず(裁判所において顕著な事実の筈である)、この点は「証拠がない」などとして簡単に片づけられる点ではない。このように、そもそも弁論兼和解は、公開の法廷でなされず、裁判官が密室で言いたい放題のことを言っても何ら咎め立てもされないで済むこととなり、憲法における裁判の公開原則に反する違憲違法なものだということが、この点でも立証できよう。なお、かかる事態(密室での裁判官の放言・暴言)を放任しておけば、今次の民事訴訟法改正にも悪影響を及ぼすことは必至であろう。
二 新たな証拠取調べの必要性
1 申立人(原告)は、平成七年八月二九日付け弁論再開申請書をもって、左記証拠の取調べの必要性を説いて、同日付けで、証拠申請もなした。
しかるに、裁判長は、右申請にかかる証拠採用を迅速に行わない。
2 京葉都市開発の高橋について
既に京葉都市開発の高橋については証人申請してあるが、取り調べられていない。
京葉都市開発の高橋は、丁沢に対して、本件建物の瑕疵がある故に買取りを要請した人間であり、丁沢の雨漏りについての認識を知る重大な証人であって、これを取り調べる必要性がある。
3 伊藤設計の伊藤について
伊藤は、本件建物の設計者であり、第一売買前の昭和六三年一月には既に、本件建物の瑕疵(雨漏り)について、Cからの苦情を受けた京葉都市開発からの依頼を受けて、調査を行っていた人物である。
第一売買当時、本件建物の瑕疵がC、京葉都市開発、丁沢らに既に知られていた事実を、よく知る証人であって、重要である。したがって、取り調べる必要性がある。
4 入居者について
本件建物の第一、第二売買当時、雨漏りしていたことを知る入居者が調べられていない。これらの人物は、Cなり被告に対して、雨漏りしていたことを苦情として言っていた。したがって、これら入居者を調べる必要性がある。
第二売買は昭和六三年九月になされたが、原告が被告への現実の所有権移転登記は、昭和六三年一〇月である。
そうすると、被告は、この間に、本件建物の雨漏り等の瑕疵を認識していた可能性が強い。したがって、「実質的な仲人」であった被告(丁沢速記録六八頁)としては、原告に瑕疵ある物件を買わせて、かつ被告一人の利得になるような、問題のある第二売買を中止することができたはずであるし、そうすべきであった。しかるに、被告は何らそのような行為に出ていない。したがって、この意味でも、被告の損害賠償責任は根拠付けられる。
5 これらの重要な証人を取調べもしないで判決が書けるわけがない。
これらは、被告丙山太郎ないし株式会社A銀行に対して不利な証言をする可能性の強い証人である。したがって、これらの証人を取調べもしないという裁判長の訴訟指揮は、著しく偏頗のおそれが強いということができる。
三 また、原告(申立人)は、平成七年九月六日付けで、御庁民事第四一部の別件訴訟との併合を求めたが、何らの応答もしていない。
第三 裁判官としての適性の問題
一 右裁判官は、弁護士任官に関する説明会で、裁判官としての適性がないことを自ら暴露するような発言をしている。
甲第一号証の三六頁によれば、同裁判官は、「訴状と答弁書を見て、大体50%は結論を予測できる」等と言っているが、それこそ予断を持って事件に臨んでいる証拠である。訴状と答弁書を見ただけで、神様ではあるまいし、結論を予測できる筈もない。また、50%の結論を予測して、当たる確率は50%なのであるから、半分は予測が外れているということになる。
また、甲第一号証の三六頁によれば、自ら「職権的だと批判されたりする部分もある」と自認している。
また、甲第一号証の三八頁によれば、実際は証拠外の別な部分で判断していると自ら認めている。証拠をきちんと評価しないで、自らが勝手に作り上げた「事件の筋」とやらで証拠を恣意的に判断していることが明らかである。
また、甲第一号証の四三頁によれば、同裁判官は、「とにかく弁護士時代は非常にルーズな仕事をして」いたという。弁護士時代に非常にルーズな人間が、裁判官になって、簡単に変わることも難しい。ルーズな人間は、どの職に就いてもルーズだと思われても止むを得ない。
このように、同裁判官は、裁判官としての適性を著しく疑わせるような言動を繰り返している。
二 なお、同裁判官については、かねてより、「思い込みが激しく、事件の当初から、当事者が争っている点とは別個に独自の心証を独断で形成して、弁護士や当事者・証人に対する決めつけや証人尋問の介入をしたり制限をしたり、極めて職権的であり、予断を持って、審理に臨んでいる」という風評がある。同裁判官自身、自ら「職権的だと批判」されていることを意識しているのは、甲第一号証からも明らかである。
確かに弁護士は、生の事実を法律的に再構成して、事件の絵を描いて、それを裁判官に判断してもらうことが仕事である。だが、それも当事者や関係人の話を、直接に、虚心坦懐に聞いて、弁護士は、初めて「絵が描ける」のである。同裁判官が弁護士を辞めて裁判官になってから、当事者や関係人の話もろくに聞かずに、証拠もきちんと検討もせずに、予断を持って「この事件はこうだ」等という決めつけることはできない筈である。
三 このような裁判官としての適性を疑わせるような事情からすると、当事者ないし別件訴訟で当事者となっているA銀行との間の利害関係があることによって、偏頗性の存在がますます強く推定されると言うべきである。
第四 よって、忌避の裁判を求める。
疎明方法
甲第一号証 第一東京弁護士会会報(同裁判官が弁護士任官について語っている座談会が掲載されたもの)
甲第二号証 同裁判官がB合同法律事務所に所属していたことを示す「弁護士名鑑」
甲第三号証 B合同法律事務所所属弁護士の担当事件